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ストック・オプションの会計処理について解説します

2025.12.09
コラム

史彩監査法人パートナー 山口大希 執筆


IPOを検討される非上場企業では、多額の金銭報酬を用意することが難しい中でも優秀な人材を確保するための手段の一つとしてストック・オプションを発行する事例が多くあります。
ストック・オプションには発行時に取得者から一定の金銭を受領する有償ストック・オプションと無償で発行する無償ストック・オプションの2種類があります。
本稿ではストック・オプションを発行する企業において、それぞれどのような会計処理が必要となるかを解説致します。


1.有償ストック・オプションの会計処理

有償ストック・オプションについては、実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」に従って会計処理を行います。
有償ストック・オプションにかかる会計処理の流れは以下となり、下線部は従業員等からの払込(有償部分)について追加の定めを規定したものであり、それ以外についてはおおむね通常のストック・オプション会計基準に準じた会計処理(即ち、無償ストック・オプションと同じ)となります。


有償ストック・オプションの会計処理のまとめ
①従業員からの払込有償ストック・オプションの付与に伴う従業員等からの払込金額を純資産の部に新株予約権として計上する。
仕訳例:
(借方)現金預金 500 /(貸方)新株予約権 500
②新株予約権の計上と費用処理有償ストック・オプションの付与に伴い企業が従業員等から取得する労働サービスの対価として対応する額を、当該労働サービスの取得に対応して株式報酬費用として費用計上し、有償ストック・オプションの権利行使又は失効が確定するまでの期間、純資産の部に新株予約権として計上する。
仕訳例:
(借方)株式報酬費用 100 / (貸方)新株予約権 100
③各会計期間の費用計上額労働サービスにかかる各会計期間の費用計上額は、有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を算定する。
有償ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単位に有償ストック・オプション数を乗じて算定する。
④ストック・オプションの公正な評価単価の算定有償ストック・オプションの公正な評価単価の算定は、以下のとおり行う。
・公正な評価単価は付与日において算定し、ストック・オプション会計基準第10(1)に定める条件変更時を除いて見直さない。
・有償ストック・オプションの公正な評価単価における算定技法の利用については、ストック・オプション会計基準第6項(2)に従う。なお、失効見込みについては有償ストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない。
ストック・オプション会計基準第6項(2):ストック・オプションは、通常、市場価格を観察することができないため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法を利用することとなる。算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える。
ただし、失効の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない。
⑤ストック・オプション数の算定及びその見直し有償ストック・オプション数の算定及びその見直しによる会計処理は、以下の通り行う。
・有償ストック・オプション数は、付与日において、付与された有償ストック・オプション数(以下、付与数)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する。
・付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、原則として付与数を見直す。付与数を見直す場合、見直し後の付与数に基づく有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差引いた金額のうち合理的な方法に基づき見直しを行った期までに発生したと認められる額と、これまでに費用計上した額との差額を、見直しを行った期の損益として計上する。
・権利確定日には、付与数を権利の確定した付与数に修正する。付与数を修正する場合、修正後の付与数に基づく有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差引いた金額と、これまでに費用計上した額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上する。
仕訳例(株式報酬費用が増加する場合):
(借方)株式報酬費用 50 / (貸方)新株予約権 50
⑥ストック・オプションの失効有償ストック・オプションが権利不確定で失効した場合、新株予約権として計上した払込金額のうち当該失効に対応する部分を利益として計上する。
仕訳例:
(借方)新株予約権 1,000 / (貸方)新株予約権戻入益 1,000
有償ストック・オプションの付与日から権利確定日までの会計処理は③であり、有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差し引いた金額が、各期に配分する費用処理対象の金額となります。

表の②において費用処理が不要となるケース
ストック・オプションの評価額が10円で、付与された従業員からの払込が11円だった場合、差額がマイナスであり、追加の費用計上は生じません。その後は、ストック・オプションの行使価格等の条件変更によりストック・オプションの評価単価が上昇する場合(会計基準第10項(1))を除いては、事後的な会計処理は発生しません。
そのため、実務上は有償ストック・オプションの払込額を、会社が専門家(会計事務所や評価機関)から取得したストック・オプションの評価額と同額か、やや上回るように設定することで、会計上の費用が発生しないように設計することが一般的です。

2.無償ストック・オプションの会計処理

無償ストック・オプションについては、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針に従って会計処理を行います。
無償ストック・オプションの会計処理は1.の表から従業員等からの払込の取扱い(有償ストック・オプション特有の取扱い)がないものとなります。従って、ストック・オプションの付与日時点における公正な評価額を、各会計期間に配分して費用計上することが原則的な取扱いとなります。
ただし、未公開企業における簡便的な取扱いとして、未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができることとされています(会計基準第13項)。
ここで、「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいいます。ストック・オプションの公正な評価額は本源的価値と時間価値から構成されますが、この簡便法は本源的価値のみで会計処理することを許容する方法です。

表の②において費用処理が不要となるケース
このため、未公開企業の発行するストック・オプションにおいて、行使価額が自社株式の評価額以上である場合、本源的価値はゼロとなり、費用処理対象の金額はゼロとなります。

原則「公正な評価額(=本源的価値時間価値)」を各期に費用配分
⇒(借)新株報酬費用 100 /(貸)新株予約権 100   
未上場企業の簡便法本源的価値(=自社株式評価額-行使価格)」を各期に費用配分
⇒自社株式評価額<行使価格の場合は、本源的価値がゼロとなり、会計処理なし   

そのため、実務上は無償ストック・オプションの行使価格を、会社が専門家(会計事務所や評価機関)から取得した自社株式の評価額と同額か、やや上回るように設定することで、会計上の費用が発生しないように設計することが一般的です。


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