史彩監査法人 スタッフ 髙宮佑太 並木翔馬 執筆
公認会計士試験が現在の形式の試験(新試験)となってから約20年が経過しましたが、昨今では以下のような状況が生じています。
➣短答式試験は、合格率が低すぎることや1問あたりの配点の⾼い問題が合否に与える影響が⼤きいこと等から、必要な知識を体系的に理解していても合格できない者が多数⽣じ得る状況
➣論⽂式試験は、合格率が⽐較的⾼いことや科⽬によっては記述問題の分量が減少していること等から、必要な思考⼒や応⽤能⼒等を⼗分に訓練できていなくても合格し得る状況
これらの状況に対応すべく、2025年6月に公認会計士・監査審査会から「公認会計士試験のバランス調整について」が公表されました。
今後数年間にわたって、段階的に公認会計士試験が変化していきますので、ポイントを解説します。
公認会計士試験の基本的な概要については、こちらのコラムもあわせてご覧ください。
公認会計士と簿記の違いは?試験の概要や難易度を解説
①短答式試験と論文式試験の合格率の調整
より多くの受験者が論⽂式試験を受験し、論⽂式試験において適正な競争が⾏われるよう、論⽂式試験の受験者数(短答式試験の合格者数)を増加させる方針です。
よって、短答式試験の合格率は、令和6年の12.0%から上昇していくことが見込まれます。
一方で、論⽂式試験の合格基準の⽔準を得点⽐率52%から54%に引上げる方針です。
よって、論文式試験の合格率は、令和6年の36.8%から10%程度低下することが見込まれます。
なお、短答式試験の合格者数の増加は令和8年試験から、論文式試験の合格基準の引上げは令和9年試験より3〜4年かけて実施されるとのことです。
以上より、短答式試験の合格率が上昇することで、よりチャレンジしやすい試験になるかもしれません。
また、論文式試験の受験者数が増加し、かつ、合格率は低下しますので、これまで以上に論文式試験には十分に対策して臨む必要があります。

https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/20250612.html
②短答式試験の配点・試験時間の調整
受験者の能⼒等をより的確に判定できるよう、計算問題のある科⽬(財務会計・管理会計)において、問題数を増やし、1問あたりの配点の差を縮める主旨の変更です。
問題数の増加に伴い、各科⽬の問題数や解答負担等に応じて試験時間も調整されます。
出典: 公認会計士・監査審査会HP
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/20250612.html
これまでの計算問題(特に管理会計)は、1問の配点が高く、時間が非常にタイトな中で解答する必要があったことから、1問のミスが命取りとなることもありました。
財務会計、管理会計の問題数増加、試験時間の延長により、このような状況は緩和されて、より実力が反映されやすい試験になることが想定されます。
よって、計算問題の強化、基礎問題の徹底がより重要になります。なお、こちらの変更は、令和8年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験、つまり2025年12月実施の短答式試験より適用されますので、注意が必要です。
③出題内容の変更
公認会計士を取り巻く状況の変化から、公認会計士試験の合格者に求められる知識や能力も拡大しています。よって、公認会計士試験の出題内容については、以下の検討が行われています。
(1)短答式試験と論⽂式試験の位置づけ・役割に応じた適切な出題
・短答式試験では、出題全体の難易度のバランスを取り、問題のボリュームや難易度に配慮した出題が必要。
・論⽂式試験では、思考⼒や論述⼒等を確認するため、⼀定の記述量を求める出題が必要。
(2)論⽂式試験の選択科⽬における能⼒判定の適正化
・論⽂式試験の選択科⽬(経営学、経済学、⺠法、統計学)は、受験者の9割以上が経営学を選択しているが、多様な試験合格者が輩出されていくため、経営学以外の選択科⽬の受験者数が増えることは重要。
・受験者数が少ない選択科⽬においても適正な能⼒判定が⾏えるよう得点換算⽅法等について検討。
(3)公認会計⼠の業務や求められる能⼒の拡⼤に応じた出題
・英語による出題、サステナビリティ情報の開⽰・保証及びITの活⽤に関する出題について検討。
(1)の論文式試験の出題については、直近の論文式試験の財務会計論において一定の字数制限のある記述問題が出題される傾向があり、同様の記述問題が出題されていく可能性があります。
(3)英語・サステナビリティ情報・ITの活用に関する出題は今後順次取り入れられていくものと考えられるため、従来の出題内容の対策は継続しつつ、出題内容に関する今後の公表をしっかり追っていく必要があります。
まとめ
これから段階的に変わっていく公認会計士試験ですが、総じて、より実力が反映されやすく、努力が実りやすい試験への歩みであると思います。
従来の対策、計算問題の強化や基礎問題の徹底は継続しつつ、直近の変更(短答式試験の配点・試験時間の調整)には対応できるように準備を進めましょう。